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F社は、橋梁(橋)の状態をセンサやドローン(カメラロボット)で点検・診断するシステムを開発・実用化している会社です。この問題は、そのシステムをさらに進化させる話で、IoT(モノをネットにつなぐ技術)にあまり馴染みがなくても読めるよう、要素を整理します。
現行システムの構成要素
現行システムの問題点
新システムでの解決策
IoTでよく出てくる論点: リアルタイム性
この問題の設問2(2)は、風向・風力計のデータを、既存の診断サーバ経由で取得するのではなく、カメラロボットの飛行制御に使う場合の問題点を問うています。診断サーバへのデータ送信は「1時間ごと」などまとまった周期で行われるため、今まさに吹いている風の状態を反映しません。ドローンを安全に飛ばすには「今の風」が分からないと制御に使えない、という「リアルタイム性」の問題です。IoTシステムを設計するときは、「そのデータは何秒・何分前の情報なのか」「それは用途に対して十分新しいか」を常に意識する必要があり、この設問はその感覚を問うものです。
橋梁の点検・診断システムを、手動操縦のカメラロボット+固定設置センサノードから、自律飛行カメラロボット+着脱式センサロボットへ進化させる問題です。設計のポイントは、(1)センサノードの通信をモバイル化してゲートウェイを不要化しコスト・設置制約を解消、(2)センサロボットによる着脱式運用でセンサノードの再利用性を確保、(3)風向・風力データのようにリアルタイム性が要求される用途では、周期集約型の診断サーバ経由データでは不十分という論点、(4)自社データだけでは劣化予測モデルの精度確保に限界があるため業界横断のデータ標準化(変換層)が必要、という4点です。設問2(2)は「何が問題か」を的確に特定できるかが正答の分かれ目になっています。
状況設定は要点を要約しています。表は原文の要点を掲載します。
我が国では、高度成長期以降に整備された橋梁、トンネル、河川管理施設など、建設後50年以上経過する社会資本の割合が加速度的に高くなっており、老朽化対策が大きな社会課題となっている。壊れてから直すのではなく、壊れる前に小さな補修を繰り返すことで長寿命化を図るアセットマネジメントの観点から、効率的・効果的な点検・診断を高頻度で行うことが重要である。
F社は、各種センサ及び飛行型カメラロボットの活用によって、橋梁の状態を点検・診断するシステム(現行システム)の開発・実用化と、それを用いた点検・診断作業の受託を行っている。しかし、複雑な構造の橋梁の点検にはカメラロボットを手動操縦する必要があり、熟練操縦者の不足など幾つかの問題がある。
〔現行システムの概要〕(表1、抜粋)
点検・診断の手順: (1)カメラロボットを操縦し橋梁全体の高精細画像・赤外線画像を撮影(2)SDカードから画像データを診断サーバにアップロード(3)技術者が目視でひび割れ・腐食(高精細画像)、内部剥離(赤外線画像)を評価(4)センサデータから振動やたわみを算出(5)これまでの点検データや設計図面から合成した3Dモデル上に、(3)(4)の診断結果を専用ソフトウェアで表示(6)顧客とともに3Dモデル上の診断結果を評価し、補修の必要性・工事内容・優先順位を決定
〔現行システムの問題点〕
〔新たなシステムにおける取組方針と開発項目〕
F社のシステムアーキテクトG氏が設定した開発項目:
(1) カメラロボットの自律飛行技術の開発: 診断サーバの3Dモデルを活用し、自律飛行する複数のカメラロボットによる点検を可能とする (2) 必要なときだけセンサノードを設置: センサノードを自律飛行で運搬する小型の飛行ロボット(センサロボット)を開発。橋梁に固定設置するノード設置アダプタに、センサロボットがセンサノードを設置・回収。センサノードの通信方式をモバイル通信に変更 (3) 診断の効率化: 画像診断にAIを導入。環境データ、診断データ、設計データをAIで分析・学習し、劣化の予測モデルを構築して予兆診断・保全を可能とする (4) アライアンスの成果の活用: 現行システムの各データは独自フォーマットで診断サーバに格納されているが、そのまま活用し、かつアライアンスの成果も活用するため、診断サーバ上に変換層を開発し、他社へのデータ提供・他社データの活用を図る
〔新システムの構成要素の仕様・機能〕(表2、抜粋)
カメラロボットによる点検手順: (1)橋梁の3Dモデル上で飛行計画を生成し、点検前にカメラロボット及び点検制御装置に設定 (2)点検時は、点検開始後カメラロボットが飛行計画に従い自律飛行を開始。飛行中、各カメラロボットは点検制御装置に自機のGNSS位置・高度・姿勢・電池残量などを常に通知。点検制御装置は飛行計画とのずれを監視し必要なら修正を指示。飛行計画とのずれが許容範囲を超えた場合や姿勢制御困難な場合など、点検継続が困難と判断される場合は全カメラロボットに中断を指示し指定地点に着陸させる
設問1 新システムについて、(1)~(3)に答えよ。
(1) 表2中の[a]に入れる適切な字句を答えよ。 (2) センサノードの通信方式をモバイル通信にした目的を20字以内で述べよ。 (3) センサロボットの導入によって、センサノードの運用面での改善を図ることができる。コストの削減以外にどのような改善が図れるか。25字以内で述べよ。
設問2 新システムでのカメラロボットの仕様及び運用について、(1)、(2)に答えよ。
(1) カメラロボットが自律飛行を行うために全方位近接センサを用いる。全方位近接センサが障害物を検出した場合に、カメラロボットはどのような飛行を行うか。25字以内で述べよ。 (2) 点検制御装置がカメラロボットの運用を安定的に行うために、風向・風力計のデータを活用したい。診断サーバに蓄積されているデータを使用する場合の問題点を40字以内、その解決策を35字以内で述べよ。
設問3 診断の効率化のための施策について、(1)、(2)に答えよ。
(1) 予兆診断・保全を可能とするため、F社が点検・診断した橋梁を分析するだけでなく、業界横断でのデータ共有が必要な理由を40字以内で述べよ。 (2) 表2中の診断サーバの仕様・機能において、新システムで開発する変換層の役割を40字以内で述べよ。
設問1(1) 解答例:「劣化の予測モデル」
〔新たなシステムにおける取組方針と開発項目〕の(3)に「環境データ、診断データ及び設計データをAIで分析、学習することによって、劣化の予測モデルを構築することで予兆診断・保全を可能とする」とそのまま記載されています。表中の空欄は、本文中の該当する記述をそのまま抜き出せば答えになるパターンです。
設問1(2) 解答例:「ゲートウェイの設置を不要にするため」
現行システムでは、センサノードは近距離無線でゲートウェイに集約し、ゲートウェイがモバイル通信で診断サーバに送っていました。新システムではセンサノード自体がモバイル通信機能を持つので、間に立つゲートウェイが要らなくなります。現行の問題点に「ゲートウェイは商用電源が必要なので設置できる橋梁が限られる」とあった制約も、これで解消されます。
設問1(3) 解答例:「異なる橋梁でセンサノードが再利用できる」
採点講評では、この設問は「コストの削減以外に」と明記されているのに、コスト削減を答えてしまう受験者が多かったと指摘されています。センサロボットで必要なときだけ設置・回収する運用になると、1つのセンサノードを、ある橋の点検が終わったら別の橋に持っていって使う、ということができるようになります。固定設置の現行方式では、その橋にずっと置きっぱなしなので、他の橋では使えません。「コスト」ではなく「使い回せる(再利用性)」という運用上のメリットを問うています。
設問2(1) 解答例:「検出した障害物を回避しながら飛行する。」
全方位近接センサは、レーザ測距装置などと同様に周囲の障害物を検知するためのセンサです。自律飛行中に障害物を検出したら、当然ながらそれを避けて飛ぶ、という素直な解答です。
設問2(2) 解答例: 問題点「データがリアルタイムでないため、カメラロボットの飛行制御には適さない」、解決策「必要なデータを診断サーバを経由してオンデマンドで取得する。」
概念解説で触れた「リアルタイム性」の論点そのものです。診断サーバに蓄積されるセンサデータは、通常1時間ごとにまとめて送信されたものです。飛行中の風の状態をリアルタイムに把握してロボットを制御したいのに、1時間前(下手をすればもっと古い)のデータを見ても意味がありません。採点講評では「問題点をセンサデータが標準化されていないことと捉えている解答が散見された」と指摘されており、標準化(アライアンスの文脈)とリアルタイム性(IoT制御の文脈)を混同しないことが重要です。解決策は、表1・表2にある「診断サーバからの要求でオンデマンド計測も可能」という仕様を使い、必要なタイミングで最新データを取得する、という設計です。
設問3(1) 解答例:「F社のデータだけでは劣化の予測モデルの精度が早期に確保できないから」
AIによる予測モデルは、一般的に学習データの量・多様性が多いほど精度が上がりやすいという性質があります。F社1社が点検した橋梁だけでは、老朽化のパターンのバリエーションが限られてしまい、精度の高い予測モデルを早期に作るのが難しい、という理由です。〔新たなシステムにおける取組方針と開発項目〕に「アライアンスを推進してきた」という記述があり、なぜ他社データが必要なのかを、AIモデルの精度という観点から説明する設問です。
設問3(2) 解答例:「標準化されたデータモデルと現行システムのデータの相互変換を行う。」
〔新たなシステムにおける取組方針と開発項目〕(4)に「現行システムにおける環境データ、画像データ及び設計データは独自のフォーマットで診断サーバに格納されているが、これらをそのまま活用し、かつアライアンスの成果も活用するため、診断サーバ上に変換層を開発し」とあります。つまり、社内では今までどおり独自フォーマットのデータをそのまま使い続けつつ、他社とやり取りするときだけ標準フォーマットに変換する、という「翻訳係」の役割が変換層です。既存資産(独自フォーマットのデータ)を作り直さずに、新しい標準(アライアンスのデータモデル)にも対応する、という現実的な設計判断がポイントです。